風の町 同窓会

2018年01月10日

 二ヶ月前、木村が電話してきて「秀ちゃん、暮れに小学校の同窓会やるから来いよ」と言った。葬式と納骨の時に力になってくれた木村への義理もあったので、初めて同窓会に出ることにした。 

 降りたバス停ロータリーから同窓会場となっている居酒屋たぬきまではずいぶん距離があったが、タクシーも走っていない町なので、私は風の中を襟を立て田んぼ道を歩くことにした。たぬきは商店街を外れた県道沿いに建っていて、一メートルほどの陶器製の狸が店の入り口に置かれ、店の前には十灯の赤提灯がぶら下がっている。店長で同級生の徳江は、高校時代にシンナーを吸ってバイクで事故を起こし、それ以来、左足が曲がらかった。高校を中退してからは、県内の飲食店を転々しながら働いたが、バブルの時に親の所有していた田畑が売れ、その金でたぬきを始めたのである。もともとM町には居酒屋が無かったので、何かの会合や宴会といえば、誰もが、たぬきを使うようになり店は案外に繁盛した。

 二十畳ほどの座敷の入り口には「M小学校昭和四十六年卒業同窓会」とマジックで書かれた紙が貼られていた。私が着いた時には宴は始まっていて、町会議員でスーツ姿の荻原良夫が挨拶をしていた。次期町長選に出るという噂は木村から聞いていた。テーブルの上にはビールや日本酒、水割りのセットなどが並び、五人づつくらいの島ができいて、中年の男女が既に座っていた。男たちは白髪が増え、髪は薄くなり、女たちの殆どは丸い体系をしていた。木村は遅れてきた私を見つけると、「ここだよ」と声をあげ、隣の座布団を指さして手招きした。ざっと見渡したが参加者の名前のほとんどは思い出せなかった。参加者の挨拶が始まっても、記憶に残っている顔と名前が一致した人は数人だけだ。私は「都内のK製薬会社に勤務している勝沼秀です」と簡単に自己紹介したが、木村以外の参加者は、私を見ても関心がない様子で隣同志で話し合っている。私を知っているはずの同級生も、私を無視するように話をしている。この町の住人は、東京に出て行く人を嫌う。東京に出て行った人の殆どは、二度と町に戻ってこないからだ。私もその一人であった。母親に一人暮らしをさせて、一人で死なせたことが噂になっているのかと思った。宴に交われない気持ちがどんどん肥大化していく。木村だけが私を気遣って声をかけたり話題をふったりしてくれたが、横の安藤という女性は、私に酌をするが目を合わせようともしなかった。